第一話 帰郷

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 森の魔法使いは自然と伝統を重んじる生活を今も営み続けている。  例えば、今や魔法使いの町でも人間の発明した便利な道具、「デンキ」と呼ばれる明かりはどこでも使われているけれど、サリタの森ではいまだに人間の道具を使うことは禁止されていた。  神話によると、はるか昔人間は進化しすぎた文明のために一度自然を滅ぼしかけたことがあるらしい。そのとき、自然を守るために神によって創られたのが魔法使いだと言われている。   人間たちはそのときに全てを失い罰として寿命を短くされたけれど、持ち前の知恵と器用さで再び発展しているようだ。けれどサリタの森では、人間の道具は危険で災いを呼ぶものとして使うことを禁止しているのだった。  伝統も自然の中で暮らすことも決して嫌いではない。けれど、町育ちのアニエには少し退屈だった。  もちろん、母には反対されたけれど、何年も頼みこんでようやく学院に入学する許可をもらうことができたのだった。  ――いい? 決して森に近づかないように。  母は何度もアニエに念を押した。  けれど変な話だ。ずっと森の中で暮らしていたというのに、森に近づくな、なんて。それに、もう森で迷子になるような年齢でもない。  それでも母は言葉を覚えたばかりのオウムのように、何度も何度も、「森には近づかないように」と言ってきた。
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