17人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
馬車が停留所でとまった。
外に出るとアニエは大きく背伸びをする。長かった馬車の旅もようやく終わりだ。目の前には爽やかな黄緑色をした小高い丘がなだらかに続いている。その丘を歩いて超えたところにマルムがある。あと、二、三時間ぐらいで着くはずだ。
深呼吸をすると、あたり一面に咲いているクチナシの甘い香りが鼻の奥をくすぐった。
「お嬢さん、マルムに行くんだろう?」
御者の男性が言った。
「そうです」
「最近、マルムは雨不足で困ってるって話だよ」
「雨不足ですか?」
周囲には白いクチナシの花がキレイに咲いている。水が不足しているようには見えない。
アニエは首をかしげる。
「俺も噂で聞いただけだけど、なんでもマルム周辺にだけ雨が降らないそうだ」
「マルムだけですか? そんなことがあるんですか?」
「ほら、あそこには学院があるだろう? そこでおかしな研究でもやったんじゃないかって評判さ。お嬢さんも気をつけたほうがいいよ。学院は変わった人が多いっていうからね」
「私、その学院に行くんです……」
「おや、それは失敬。でも、森の魔法使いが学院に?」
「資格がある方が色々と便利なので」
最初のコメントを投稿しよう!