第四話 モリスの森

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 水晶板には何の文字も浮かんでいない。  アニエはこっそりと部屋を出た。寮の廊下は明かりもなく静まり返っている。しかし、満月の光のため暗くはなかった。  外に出ると、夜ふかしな学院生たちが校庭の芝生の上で本を読んを読んだり、夜光虫を観察していたり、星を眺めたり、議論に熱くなっていた。アニエが土色のマントを着て外へ出ようとしていても気にとめる者はいなかった。  アニエは馬を借りて賢者の裏庭を通り抜け、銀貨湖を右手にぐるりと回っていく。  銀貨湖はその名の通り銀色に輝く丸い湖だ。月光に照らされてキラキラと銀色に輝いている。  その奥に見える白い塔は月神神殿。大陸南部は月神信仰が強く、北部は日神信仰が強い。王都やサリタの森がある中央部では、月神と日神を同時に祀ることが多いが、北部や南部の人がそれを見て異端だと憤慨することもあるという。  湖を抜けるとレヴィ・ローレンの住むローレルの森だ。  アニエはレヴィ・ローレンのお見舞いに行きたい気持ちを我慢しながら通りすぎ、小川を渡る。  さすがに町のほうは静まりかえっていて人影はない。  左手に赤と黄色の森が広がっている。ここもその名の通り、年中葉が赤と黄色に色づいている万年紅葉とイネムリイチョウが茂る森だ。
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