第四話 モリスの森

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 月の光を浴びて燃えるように森が輝いている。草食の大人しい動物しか棲んでいないと聞いていたのに、この美しい森に人を襲った熊がいるとは少し信じられない。  その南に広がる牧草地が綿菓子牧場だろう。アニエがマルムに住んでいたときはまだなかったが、近年、綿菓子羊という新種の羊が人気となり、マルムでも二年前から放牧をはじめたようだ。  そこにロラン・トレムの両親が住んでいる。  そしてそこで、ヘンリー・ロウが死んだ。  冷たい風が吹いた。  アニエはぶるっと肩を震わせた。  馬を北へ向ける。  そこにある小さな森が、モリスの森だ。  モリスの森は赤と黄色の森の隣にあるためか、薄暗くて地味で不気味な感じのする森だった。なぜ、こんな森にユニコーンが棲んでいると言われているのか、考えてみると不思議だ。美しくて幻想的な赤と黄色の森のほうが、ユニコーンには似合っているような気がするのに。  モリスの森の北には大きなレーグ川がある。  その向こうにいつも霧が出ていてよく見えないが「物言わぬ森」と呼ばれる黒い樹海が広がっている。そのどこかにエルフ族が住んでいると言われているのも不思議な話だった。ユニコーンもエルフも薄暗い場所とは正反対のイメージなのに。  アニエはモリスの森の入り口で馬を降りた。
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