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全員がいっせいにアニエに注目する。
別にみんなに聞いてもらいたかったわけではないがと思いながら、アニエはうなずいた。
「狼男って獣人族の?」
「でも、獣人族って絶滅してるよね?」
「生き残ってるとしたら、ロマンだねえ」
「どこで見たんだ?」
アヴィンが聞いた。
「昨日の夜、モリスの森で」
「モリスの森? しかも夜に?」
まるで詰問するかのような強い口調に、アニエはたじろいだ。
「一人で? お前は正気か? なんでそんなバカなことをするんだよ」
アヴィンはものすごい形相で怒っている。昔、行方不明になったときの母のようだった。いや、それ以上かもしれない。
「森の魔法使いが森に行かないことのほうが正気じゃないでしょ? 夜の森を散歩するのはサリタでは普通のことなんだから」
アニエはアヴィンの態度にむっとして反論をした。そして思わず嘘までついてしまった。
サリタでは、夜の森を散歩するときは一人で行かないようにと言われていたのだ。妖精たちにたぶらかされてしまうから、と。それを思い出してアニエは気がつく。モリスの森には妖精がいなかった。ユニコーンが棲むと言われるような森に妖精がいないなんてことがあるだろうか? いや、昔はたしかにモリスの森にも妖精がいたはずだ。
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