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【悪しからず。】
「おそいよ。そんなに着飾って、何と戦うつもり?」
今日はサルベリア国に嫁いだアイリーン王女がやってくる日だ。クララベルはいつもより支度に時間をかけている。
女官に指示を出して新調したドレスに着替えていたが、やっと準備ができたようだ。出迎えるまでもう時間がない。
「なによ、そんなんじゃないってば」
クララベルは薄青い清楚なドレスで現れた。髪の巻きも緩く、紅の色もいつもより薄い。
「へぇ、珍しい色を着てるな」
「……変?」
「いや、クララベルらしくて可愛いよ」
いつになったら慣れるのか、俺が可愛いという度に妙な顔をする。偽らない心を述べただけなのに心外だ。
もじもじとドレスの裾を翻して身支度を確認する。変なところはない。いつにも増して可愛い。いつもは「可愛い」が勝つけれど、今日はどちらかというと「美しい」って感じだ。
「私らしい、かしら?」
「女官が選んだ服を黙って着せられてるけど、本当はそういう繊細な色加減が好きだろ?」
俺が言うと、今度は額に皺を集めて難しい顔をしている。表情がコロコロと変わるたびに口付けたい気持ちになる。
「……そう。よく知ってるわね」
「そりゃね。昔からクララベルの服を、手配してたのは俺だし――誕生日の物とかも」
「ええ?! そんなの聞いてないわ! いつからよ!」
「父さんがひらっひらの変なのを持っていこうとしてたから、止めてやったんだからな。装飾品、気に入ってるようでよかったよ。ワードローブのいい場所に飾ってあったもんな」
何が気に入らなかったのか、クララベルは口をへの字にしている。可愛い。我慢できなくて抱きしめれば、腕の中で抵抗し始める。出してやるつもりはない。
「――そうならそうと言ってよね」
「お礼は父さんから聞いてたからいいけどさ。それより、しつこくこの指輪をつけ続けていることの方が嬉しい」
銀の台座に竜の目のような石が光る。クララベルが俺のものだと証明し続けているようで、満たされるものがある。手を取って石に口付ける。
俺の態度の豹変に、クララベルが戸惑っているのは知っている。どう頑張ってももう前には戻れないから、早くなれて欲しい。
もじもじと何か言おうとしているのをまっていると、とんでもないのが来た。
「……私、ミスティが好きだわ」
「へ? ああ、まあ、そりゃ、番いなわけだし?」
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