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現在、国を執るカヤロナ家は、竜の血を引き継ぐ者達の、遠い親戚筋にあたる。
カヤロナ家は本家を相手にクーデターを起こし、国を乗っ取り、国名まで変えた。
クララベルは王家の正当な血統であるベリル家の名を口にするたび、形容しがたい悪寒を感じる。単に竜の血を引き継ぐバロッキー家を話題にするのとは違う感覚だ。
「はぁ? ひとの婚約者ぶん盗ろうとしていたお姫様が品位を語るの?」
ミスティは、機会があれば何度でもクララベルの引き起こした事件を取り上げて詰る。
クララベルは少し前にバロッキー家の別の兄弟の縁談に割って入ろうとした。妹に縁談を譲るという事情があったにしても、やり方が良くなかったと、たくさんの大人に叱られた。
「サリとヒースには正式に謝罪したわ。これ以上どうしろって言うの。レトにもジェームズにも叱られたし……イヴなんか――」
一国の王女を一番厳しくしかりつけたのはミスティの母であるイヴだった。
ミスティは思い出して大笑いする。
「母さんに尻を叩かれて泣いたよなぁ。あんなので泣くかよ。母さんも慌てるし、あれは面白かったな」
「もう、いいじゃない! あれはびっくりしただけよ。イヴはまた遊びに来てもいいって言ってたわ」
「図々しいな。もう来るなよ」
「そんなの、ミスティが決めることじゃないわ」
腕を組むと、つんと明後日の方向を向いてしまう。イヴには叱られたが、そのあと焼き菓子を振舞ってもらって、また会いに行くと約束しているのだ。
とにかく、クララベルはすぐに突っかかってくるミスティのことが気に入らない。どこにいても気に触る。特別大嫌いなくらいだ。
「いつものひらひらした恰好でも困るけど、ちゃんと女装して護衛をするというのなら、呼び名を変えなければならないわね。ええと、何にしようかしら……ミ、ミ……ミーシャ? ミリー?」
「ミッシーでいい。それより化粧品貸してよ」
化粧をしなくてもミスティは美しい。
バロッキー家の男たちは一様に美しい。竜の血が美しいものを求めるが故の結果だ。
誰を思い浮かべても、ちっとも似ていないのに、それぞれに整った容姿をしている。
クララベルの美しい婚約者は化粧台の前の椅子に座って、ごそごそと引き出しの中を探し始めた。
「化粧って、ミスティが自分でやるの?」
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