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しばらく頭のおかしい状態が続いていたので、怖がらせないように、慣れた憎たらしい言い方も混ぜておこう。これから客を迎えるのでなければ、そのまま攫って行ってしまいたいくらいのことを言っている自覚があるのだろうか?
嬉しい。戸惑っているけれど、クララベルは俺のことが好きなんだ。
「番のことはややこしくなるから置いておいて」
クララベルは少々誤解している。番を選ぶのと恋は別だと思っている。竜は美しいものが好きだ。それは間違いない。でも、竜が番を選ぶのは見た目だけではない。
竜は一瞬で相手の好ましい内面までを嗅ぎつけるのだ。その魂を器ごと愛する。
「私ね、どれだけ我儘で高慢ちきなお姫様だと思われたって構わないって思うようになったのよ。それまではとても嫌だったんだけど、ある時に吹っ切れたのよね」
「なんで?」
何かを一生懸命に伝えようとしている。
クララベルは俺が番だってことはわかるのに、それが恋だとはまだよくわかっていない。今日こそは、何か考えが前進したのかもしれない。
「ミ、ミスティがあの肖像画を描いたから! エラそうじゃない私がいるって、知っている人もいるんだって……私に向けられた愛を、あの絵が教えてくれたのよ」
クララベルの声がふるえる。間違いなく誰よりもクララベルを知っているのは俺だ。
先に好きになってよかった。俺の全てがクララベルに向いていたから、クララベルの竜の血は俺を選んだ。
クララベルはついにしゃくりをあげる。ぽろぽろとこぼれる涙を見るのは、初めてではないけれど、愛しくて、じっくりと顔を見つめてしまう。
ふと思い出した結婚式の涙の意味がわかって、胸が熱くなる。
「私、ミスティが好き」
「わあ、ちょっ、なんだよ。泣くなって」
「ちゃんと聞いて。ミスティが好きなの……」
こんなふうに言われると慌てる。嬉しくて、抱きしめたらいいのか、キスしたらいいのか分からない。
「ええと、あの……」
「私も竜の目だったらよかったのに。そしたら、もっとちゃんと伝わるのに」
化粧をしているからこするわけにもいかず、瞬きをしながらぼたぼたと涙をこぼす。
ああ、もう、なんだこれ。可愛いったらない。クララベルが俺のこと好きだって――泣いてる。
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