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【茶会】
「お茶会に参加するのは久しぶりだわ」
カヤロナ国の第三王女、クララベル・カヤロナは、物憂げに呟く。きつく巻かれた山吹色の金髪と深い青い目に施された濃い化粧が、クララベルに気の強そうな印象を与えている。
いつもなら、公的な場には近衛のレトが付き添うが、今日は勝手が違う。
婚約者であるミスティがクララベルの護衛につくことになっていた。
「それにしても、ミスティが来るとは思わなかったわ。何よその服、まるっきり女の子じゃない」
「似合うだろ? 皆で選んだから完璧なはずだぜ」
ミスティは上等な生地で仕立てられた淡い緑色のスタンドカラーのワンピースを着て、だらしなく椅子に腰かけ足を組み上げている。膝が見えて、クララベルは苦々しい顔をした。
ふわりと袖を膨らませてあるので、唯一、少年らしさを主張する骨張った長い手足はうまく隠せている。胸には詰め物をしているようだ。
「ほんと、お似合い。私の婚約者が女装好きのバロッキーだと知れたら国が混乱するわ」
十六歳の少年にはまだ男性らしい部分は少ない。ミスティは普段からレースやシフォンの性別の分からないような服を好んで着るが、今日はより一層、少年には見えない格好をしている。赤い地毛を編み上げて、少し毛を足しただけなのに、それだけで麗しい乙女が出来上がっていた。
「はっ! 失礼な事しか言えないお姫様には、へんてこな婚約者がお似合いだっていう噂だろうな?」
「自分がへんてこだっていう自覚はあるのね。でも、へんてこなだけじゃなくて、口と性格がひん曲がってるっていう噂もつくのよ、軽く見積もらないでちょうだい」
クララベルは、腰に手をやって、ミスティ・バロッキーを睨む。
カヤロナ家と確執のあるバロッキー家から迎えた婚約者がミスティだ。
婚約が決まったばかりの二人の間には、よそよそしさもないが、甘さもない。
「わかっていると思うけど、余計な事はしないでよ。ミスティの行儀が悪いと、こちらが恥をかくわ」
「アルノに立ち居振る舞いを見てもらったから、心配はないと思うけど」
ふわりと立ち上がり、くるりと回ってみせる姿は愛らしい。
「ベリル家のアルノね。まぁ、ベリル家はもとは王族だし、品位は疑いようがないけれど。ミスティの持ち前の下劣さで襤褸が出るんじゃないかしら」
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