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「ああ、ラッキーだったな。オレ、ここのテリーヌショコラ好きなんだ。使うのはラム酒なんかががスタンダードらしいんだが、ここのはちょっと違うんだよ。あの人は日本酒じゃないかって言ってたけど」
『喫茶店 着きました』
既読のついていたメッセージの次に『今日はテリーヌショコラです』と送る。再会からずっとスマホを手離さなくても、彼はそれについて何も言わない。
無意識に口にした「あの人」が同性の恋人で、彼とも面識のある高校の先輩だということを、彼は知っている。その恋人を追いかけて大学に進学して、現在、同居していることも、だ。
「先輩って、甘い物も食べるんだ」
「あの人雑食だから。基本、何でも食う。特別甘い物が好きな訳でもないだろうけどな」
「自分で規制しない限り、人間が雑食であることに間違いはないね」
「最初にナマコ食ったヤツは凄い、とは良く聞くけど、タコ食おうとしたヤツも大概だと思う」
「俺はハモの調理法を編み出した人に、執念を感じるよ」
「そこまでして食うか、ってな」
「そうそう。でもちょっと、友達になれそうな気はする」
「食い意地張ってるもんなあ、オマエ」
うるさいよ、と否定はしなかった彼は片手を挙げて店員を呼ぶと、アイスコーヒーとテリーヌショコラを頼んだ。彼に続いて、同じ物を注文する。
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