ピアス 〜それは「結婚指輪」に相当すると主張する〜

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 改札を抜けて周囲を見渡すと、柱の影に待ち人の姿があった。 「早いな」 「乗り換えが良く分かんなくて。たまたまだよ」  久し振りに会った高校の同級生は、表情を変えることなく言う。彼の無表情は今更で、その実は思いやりに満ちた熱い男だ。 『合流しました』  送ったメッセージに、すぐさま既読がつく。  彼を促して向かった先は、駅から少し離れた小さな喫茶店だ。  商業施設の立ち並ぶ南口側に比べて、ホテルなどの多い北口側は、人が少ない。ビルの隅にぽっかり空いた人一人通れるくらいの穴から薄暗い階段を下り、「Open」と洒落た文字で書かれた札の掛かる、やたらと重厚な扉を開ければ──そこが喫茶店だった。夜はバーになるというが、そちらがメインだろう。  テーブルが二つにカウンター席が三つ、今日も他の客はいない。  何故客商売をしているのか訝しいほど無愛想な店員が一人、いるだけだ。  メニューも簡素で、飲み物は、コーヒー紅茶にジュースが二種類。豆や茶葉が選べるものではなく、客の要望が通るのはアイスかホットかだけ。  食べ物はトーストとホットサンド、日によって違うデザートが一種類──パウンドケーキやアップルパイなどの焼き菓子が並ぶ。 「テリーヌショコラ」  レジ横の小さな黒板に書かれた「本日のデザート」を、彼が声に出して読む。
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