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姉と肩を並べ夜の街を歩く。夏の夜独特の少し湿り気を帯びたような匂いがした。
(ああ、小学生の時やった肝試しを思い出すな。子供の頃はあの公園がほんっとに怖かったっけ)
いやいや、と思い直す。大人になってからあの公園で見た光景。あの方が数倍恐ろしかった。
(帰省した時に見た千代ちゃんと将司。あれが幻だったとは到底思えない。今日も本当は変なもの見ちまうんじゃないかと内心ドキドキしてたし……。でもあれからもう十年ぐらい経つんだな)
そんな感慨に浸っていると隣の姉が突然「あっ!」と大声を出す。
「うわ、ビックリした。何だよもう」
「蚊に刺されたっ! かゆっ!」
「そんなことで大声出すなっつの。驚くだろが」
「あはは、相変わらず和也は怖がりさんだなぁ。すっごい顔しちゃってぇ。やばい、何かツボった」
笑い続ける姉を「しつこいぞ」と一睨みして話題を変える。
「で、姉貴が発見したっていうこの辺りで起きた事件とやらは何だったんだよ? 結局思い出せないのか?」
「あー、苦しい。ごめんごめん、何だっけ。事件? うーん、画面閉じちゃったからなぁ。確かに何かあったんだよ? でもさ、閲覧履歴にも残ってないんだよね。見間違いかなぁ。トースト食べて洗い物したらすっかり忘れちゃった」
せっかく何か手掛かりが得られそうだというのにもどかしい。
「なぁによ、そんな顔して見なくてもいいじゃん。洗い物してやったのに」
「いやいやいや、そういう問題じゃないだろ。思い出してみてよ。昔の地名で検索してたんだよなぁ? 〝古根木町〟〝事件〟とかでか? それとも〝古根木町〟……〝殺人〟、とか?」
そんな事件あってほしくはないが怪奇現象と結びつくとしたらやはり殺人だろう。
「何かそういうのとも違ったような……」
「そもそもさ、どんなサイトに載ってたわけ? 何かのニュースサイト? それとも怪奇現象を集めたようなまとめサイト? そのぐらい覚えてるだろ?」
「ああ、確かねぇ……。うん、そうだ、個人のブログだったような気がする!」
「ブログ? そこで事件のことが書いてあったのか?」
「そうそう、私にとっての大事件が何とかって」
俺は一気に脱力した。
「それさ、その人にとって大きなことがこの街で起きたってだけじゃねぇの? 個人にとっちゃ失恋だって友達との喧嘩だって大事件なわけで」
「えー、そんな感じじゃなかったと思うよ? そのぐらい私だってちゃんと見てるってば。記事読んだときに『おお?!』って思ったわけだしさぁ。馬鹿にしないでよね」
フン、と鼻を鳴らす姉だがどうにも疑わしい。
「でもまぁ個人ブログにしか載ってないってことは殺人やら誘拐やらの大事件じゃないってことだな」
俺がそう言って肩を竦めると姉は妙な表情で顎に指をあてる。何か思うことがあるらしい。
「何だよ、まさかニュースにもならずブログにしか載ってないような殺人事件があったとか?」
「確かに殺人、じゃないと思うんだけど……まぁいいや」
そうこうしているうち、俺と姉は家に着いた。
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