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「ただいま」
玄関を開けると猫のふくちゃんが尻尾をピンと立てニャアニャア鳴きながら駆け寄ってくる。
「お、よしよし、お出迎えか?」
しゃがんで頭を撫でてやるとゴロゴロと気持ちよさそうにノドを鳴らした。そういえば昔、お化け公園から帰った俺を見て猫が威嚇していたことを思い出す。
(あれは三毛猫のちぃちゃんだったっけか。そう、初めて千代ちゃんと話した時だ。えらい勢いでシャーシャーいってたよな。普段大人しい猫だったから妙に覚えてる。ひょっとして俺には見えない何かを見ていたんだろうか……)
しばし玄関で物思いにふけっていると先に部屋に入った姉が「ちょっと和也、何してんの? 真奈美ちゃんあんたを待ってるよ」と声をかけてきた。
「はいはい、すぐ行くよ」
俺はふくちゃんを抱っこして居間に向かう。
「お父さん、おかえり。真奈美ね、お絵描きしてたんだよ」
「おお、そうか。何描いたんだ? 見せてみろよ」
真奈美は満面の笑みを浮かべ俺にスケッチブックを差し出した。そこには実家の猫が描かれている。
「ん、これはふくちゃんか? よく描けてるじゃないか」
「でしょ? あとはね、昼間に公園で見たものとかも描いてみたんだ」
パラパラとスケッチブックを捲っていると母が「小腹が空いたかと思って簡単におつまみ作っておいたわよ。どうせあんたたち飲むんでしょ」と小鉢とビールを持ってきた。
「おお、悪いな」
俺は汚してはいけないとスケッチブックを真奈美に返し姉と缶ビールで乾杯する。
「何もなかった公園に乾杯!」
「おいおい、何だよそれ」
姉の言葉が耳に入ったのか真奈美が「公園? お父さんと美里おばさんは公園に行ったの?」と話に入ってきた。
「そうよ、真奈美ちゃん。ぐるっと公園の見回りに行ってきたの」
「ずるいずるい! 二人ともご飯食べて真奈美がお風呂入ってる間にいなくなっちゃうんだもん」
私も行きたかったのにと真奈美は口を尖らせた。
「でも夜の公園なんて何もねぇぞ? 暗いだけだしお友達もいないし。だいたいあの公園は遊具もないし退屈だろ?」
真奈美はぶんぶんと首を横に振る。
「そんなことないもん。真奈美、あの公園好きだよ? 緑がいっぱいだし、それに」
「それに?」
姉が首を傾げた瞬間、実家の電話が鳴った。
「あ、真奈美が出る!」
最近、大人の真似をして電話に出るのがマイブームらしい真奈美が電話に飛びつく。大人っぽい声を出そうとしている様子が何とも可愛らしい。そんな様子に目を細めつつ姉が「まぁ、よかったじゃん。何もなくてさ」と頷く。
「だけど事件がなかったって断言もできないわけだよなぁ」
「うーん、どうなんだろ。まぁまた検索してみるよ」
「頼むよ。気になるじゃんか」
「そうは言ってもさ、どうせあんたも明日家に帰ったらお化け公園のことなんて忘れるって」
「そうかなぁ。当分気になりそうだけど。ま、何かわかったら教えてくれよ」
結局俺は何の手掛かりも得られないまま翌朝実家を後にした。
第5章 お化け公園 完
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