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 やっていることを願って、私は駅員さんに教えてもらった"かつら民宿"に向かった。  スマホに情報はないが、マップには出てきたので迷子にはならずにすんだ。道中にホームセンターがあったので何か着替えられるものがないかと入ってみると、すでに蛍の光が流れていた。時計を見ると、二十時五分前。  私は店内の一角にある衣類コーナーを見つけ、無地の黒いTシャツ二枚と、適当なデニムパンツと、三枚一セットのパンツとブラトップを慌てて買った。  塗装のはげた木の看板に"かつら民宿"と書かれてある家を見つけた。古くて座敷童子がでそうな雰囲気で、隣にはこぢんまりとしたコインランドリーがあった。  ガラスのスライドドアを開けて「すみません」と声をかけると、少し時間をおいて小柄なおばあちゃんが現れた。    「はいはい」  おばあちゃんは「あら、珍しいこと」とにっこり愛嬌のある顔で笑い、高くて可愛らしい声で「泊まるのかい?」と尋ねてきた。  「はい、一人なんですけど部屋ありますか?」  「あるある。こんなオンボロだけどゆっくりしてって?さ、どうぞ…」  「お邪魔します…」  客室は四部屋のみ。  滅多に客は来ないけど、たまにくる客との交流が楽しくてやめられないと言ったおばあちゃんは御年(おんとし)七十八歳だとのこと。  「翌朝、死んでたらごめんね」とブラックジョークをかましている。  まだまだお元気そうだ。  
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