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 神谷さんは大学の講師をしているといった。  若く見えたが、三十四歳で私よりも五つも年上だった。  そう言われたら、確かに私なんかよりもずっと落ち着いていて、納得できた。    「あのさ…」  神谷さんは遠慮がちに「何が原因だったの?」と私に尋ねた。  昨日の彼との喧嘩の原因のことだ。    「実はずっと気になってた…聞いてもいい?」    そりゃそうだろう。  あんな山道に置き去りにするくらいの喧嘩がどんなレベルか気にならないわけがない。  私は重たい口を開いた。  「簡単にいうと、彼の浮気が発覚したことなんですけどね…それを責めたら、浮気相手は私の方だったっていうオチで…まさか二年も付き合っていたのに…そして、"最低だ"とか"鬼畜"って怒り任せに暴言吐いたら下ろされちゃいました…」  私はそう言って、肩をすくめた。  簡潔にまとめてそう言うと、置き去りにされた理由がちっとも大したことじゃなくて笑えてくる。  「何それ、最悪。逆切れってことでしょ?あり得ないな…」  そう言って、神谷さんは優しく話を聞いてくれた。  そして「そんな男のために悩んだり苦しんだりする必要なんかない」と、私を励ましてくれた。  余裕のある落ち着いた口調、センターパートの少し長めの前髪を時折かき上げる仕草、話の途中に送られてくる真っすぐな視線に、私の心臓は早鐘を打つ。  恋とはものだとよくいうが、まさに身をもって体感することになるとは思ってもいなかった。  彼と別れた(?)ばかりだというのに、なんと虫のいい話だろう。  こんな感情が芽生えるだなんて、自分自身でも驚きだ。  
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