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涙で視界が滲んだ。
それでも、私は真っすぐに神谷さんを見つめた。
神谷さんは困り顔で笑う。
私は、列車に乗り込んだ。
「一年後のこの時間!俺にまた会いたいって思ったら……日常に戻れば俺のことなんか忘れちゃうと思うけど…もし忘れなかったら、ここで会おう…」
神谷さんは、私の背中に向かって早口でそう言った。
私は振り向いて神谷さんを見下ろした。
神谷さんは、少しだけ熱の帯びた男の顔をしている。
それは、神谷さんが初めて見せた顔だった。
プルルルル…
ドアが閉まる前の警告音が鳴った。
私にはそれが"もうこれが最後かもしれないよ"という警告音に聞こえた。
胸が締め付けられる。
私は神谷さんの肩に手を置いて、素早く神谷さんの唇にキスをした。
それは本当に一瞬で、触れるか触れないかくらいのキスだった。
そして「一年後、必ず」と私は伝えた。
そしてタイミングを見計らったかのように、プシューっと列車のドアが閉まった。
切なげに微笑んで手を振る神谷さんを置いて、列車は無情にも動き出した。
現実の世界へと、私を乗せて。
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