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黄昏時、私は人も車も通らない舗装された山道を、一人惨めな気持ちでトボトボと歩いていた。そんな私の気持ちを他所に、赤とんぼが優雅に空を舞う。
小一時間歩いているのに、歩いても歩いても変わらない景色。
サンダルの踵の紐が擦れてヒリヒリと痛む。ヒールのないサンダルにして正解だった。いや、山に来るのだからスニーカーにすべきだった…と、こんな状況になるなんてまるで予想していなかったのに、今朝の自分の選択を後悔する。
虫のリリリリ…コロコロ…という鳴き声が耳鳴りを誘った。そして、時折聞こえるギィーだのギャーだのと鳴く鳥の声は、木々の間に反響して気味が悪い。
もう一時間もせずに辺りは真っ暗になってしまうだろう…
山道に入る前に見た『クマ出没注意』の看板を不意に思い出して、私は身震いした。
私の所持品は、電波の届かないスマホと、一眼レフのカメラと財布と化粧ポーチくらいしか入っていない鞄。何の役にも立ちそうにない物たちばかりだ。
どうしよう…私、無事に帰れるのかな…
何でこんなことになっているんだろう?
惨めで不甲斐なくて、悲しくてやるせなくて、涙が滲んでくる。
ひゅるりと冷たい風が私のシフォンのワンピースの裾を通り抜けて、くしゃみを一つすると、全身の肌が粟立った。
昼間はあんなに暑かったのに…
風が吹いて木々がガサガサと音を立てて、私の恐怖心を煽る。
そこの木陰から、マスクをかぶった殺人鬼が出てきたりして…
髪の長い血まみれの女の人が立っていたら怖すぎる…
物音に反応して襲い掛かってくるエイリアンがいたらどうしよう…
そんなことあるわけないのに、私は心細くなり、得体の知れない恐怖に襲われて、涙で視界が霞んだ。
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