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夕闇迫るころ、突然私の背後が明かりで照らされた。
目の前に私の影が突如現れて、大きく伸びた。
車だ…
私は振り向いて、その存在を確認する。
白のSUVだ。近づいてくる。
どんな人が乗っているのかもわからないのに、私は人間の存在にホッとして少しだけ緊張が緩んだ。
運転手は私を認識したらしく、スピードを緩めて車を停めた。
運転席の窓から顔を出した男性が声をかけてきた。
「あの…こんなところで何を?」
二十代後半くらいか、私と同世代くらいのその男性は、怪訝そうな面持ちで私にそう尋ねた。
「あ…えっと、彼氏と滝を見にドライブに来て、喧嘩して車から降ろされました」
私は挨拶もなしに、鼻をすすりながら簡潔にそう言うと、男性は「え?こんなところに?」と驚き、目を見開いた。
「あり得ないですよね…これでも一時間くらい歩いて下ってきて…」
「…マジ?それは大変でしたね」
車に他の人の気配はない。どうやら男性に連れはなく、一人のようだ。
見知らぬ男の車に乗せてもらうなど、それはそれで恐怖なのだが、この夜の山道に一人置いて行かれるよりかはましな気がした。殺人鬼か変質者かもわからないこの男を、親切な人だと信じて頼る他に選択肢がないように思えた。
私たちは互いの様子を伺い合い、どちらも言葉に詰まって沈黙した。
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