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「あの…大変厚かましいのですが…麓まで乗せていただけませんか」
私は腹をくくって、涙のあとを手で拭いながら男性に尋ねた。
「あの、失礼ですけど…幽霊とか、美人局じゃないですよね?」
男性があまりに真剣な表情で私にそう尋ねてきたので、私は思わず吹き出してしまった。
そして、自分が被害者になることばかり心配していたことに気づいて、何だか急に申し訳ない気持ちになった。
確かによく考えると、こんな山道を女が一人でふらふら歩いているなんて不審でしかない。
「違いますよ…フフッ…まさかそんなこと言われると思わなかったです」
男性も、私につられてハハハと笑って「まさかこんな時間に、山道を若い女性が一人で歩いているなんてホラー映画でしか見ないから…でも、違うならどうぞ?」と言った。
男性が見せた人の良さそうな優しい笑顔に、不覚にも私の心臓が一拍だけ大きく弾んだ。
「ありがとうございます!失礼します…」
私は、うっかり気を許してしまいそうになった自分を戒めて、後部座席に乗り込んだ。
車内は清潔感があり、ほのかに香るムスクの香りに癒された。
カーステレオからはポップな洋楽が流れていた。
「あ、俺、神谷です…」
薄暗い車内のルームミラー越しに視線が合う。
「あ…山下です」
私も名乗って、軽く会釈した。
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