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「山下さんのそれは銀塩?」
神谷さんはカーステレオのボリュームを下げて、またルームミラー越しに私に視線をよこす。
「そうです…カメラ詳しいんですね」
フィルムのことを当たり前のように銀塩と口にしたことで、神谷さんがカメラに詳しいことが窺えた。
「俺はデジイチだけど。今も、カメラついでに湧き水汲んできた帰り…」
神谷さんはそう言って、助手席の鞄を持ち上げた。
それは一眼レフ専用のカメラバッグだった。
どうやら滝に行っていたのは嘘ではないようだ。
「デジタル一眼だったら、滝はシャッター速度さげて水の流れを表現したり、クロスフィルター使って水面に反射する光の演出したり、色々試せて楽しいですね…」
私は恋人との一件でのモヤモヤする気分を誤魔化したかったし、初対面の男の車に乗っているという緊張から饒舌になった。
「それで山下さんは滝、撮れたの?」
神谷さんから何気なく返された質問に、私は黙り込んだ。
滝の近くまでは行ったのだが、車内で彼氏と口論となって、写真どころではなかったのだ。
「あ…ごめん…」
神谷さんはそう言って、口元に手を当てた。
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