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『あれ、え?小春のケータイじゃ…』
神谷さんがスピーカーフォンにしたため、彼が戸惑う声が聞こえる。
「あの、この女性のお知り合いの方ですか?この女性は小春さんというお名前なんですかね…衰弱していて意識が…」
神谷さんは、焦っている人を装った演技をした。
『…えっ!えっ!?』と、電話越しの彼の声も焦りだす。
「こんなところに女性が置き去りにされてるなんて…あなた、何か知りませんか?」
迫真の演技だ。
彼はしどろもどろ「し…知りません!」と答えた。
しらばっくれるつもりらしい。
あぁ、もう…
何故こんな男と二年も付き合っていたのかと、愕然とする。
山道に置いて行かれた時点でとっくに気持ちは冷めているが、もう軽蔑の念しかない。
神谷さんはフゥと大きくため息をついてから「お前が置き去りにしたんだろ!」と強い口調で言った。
ヒュッと、彼が息をのむ音がした。そして彼は「し、知らない!」と情けない声で言い捨ててブツっと電話を切った。
数秒の沈黙の後、私はプククっと笑った。
神谷さんも、私の笑いにつられてハハっと笑う。
「ひどい間抜け声…罪悪感に苦しめばいい」と、私が言うと「本当、ひでぇ男だな…」と言って私にスマホを返してくれた。
「なんか、ゴメン。勝手に…」
「いえ…スッキリしました。ありがとうございます」
「あのさ、余計なお世話だけど…男代表として言わせてもらえば、世の中こんな男ばっかりじゃないよ。あんた可愛いし、もっといいのいるから絶対…」
私はさっきまでのモヤモヤした気持ちが嘘のように晴れて、スッキリしていた。
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