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「ありがとうございました。本当に…」
「いえ、帰り気をつけて…じゃあ…」
最寄りの小さな駅まで送ってもらい、車から降りた私は深々とお辞儀をした。
何かお礼がしたいと申し出たが、必要ないと断れた。
あまりしつこくするのもかえって迷惑かなと、私はそれ以上何も言わなかった。
いい人で良かった…
法外な謝礼を求められたり、体で払えなんてこともなく…
なんなら、ムカつく彼に一泡吹かせてくれた…
ほんの一時間ほどしか一緒にいなかったのに、神谷さんには好印象しかなくて、世の中には見返りを求めない親切ないい男がいるもんだなと、妙に安心して気分が良かった。
神谷さんの車を見送って駅構内に入ると、帰るための列車が鹿との接触事故のために運行の目途が立っていないという案内が流れていた。
ツイてない…
厄日なのかな…
私は駅の中で一時間以上、運行再開するのを待ったが、どうやらちっとも目途が立たないらしい。
私は今日は帰ることを諦めて、スマホで駅周辺のホテルを検索した。
だが、山の麓の小さな町の徒歩圏内にホテルなんてなくて、私は途方に暮れた。
私は年配の駅員さんに声をかけた。
「この辺で宿泊できる場所知りませんか」
「あー…あまりそういうところはないよね…」
そう言って、沈黙してしまった。まさか寝ちゃったの?と思ったら駅員さんは「ここから十分くらい南側に行ったところに民宿あるわ。あそこのばーさん生きてたら、続けてると思うけど…"かつら民宿"ってとこ」と言って、南側を指さした。
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