濡れ衣

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濡れ衣

 母親の店から自宅に戻り、着替えを終えたアンジェリカは自室の文机に置かれていた手紙を広げた。  茶会の誘いにパーティーの誘いと、アンジェリカの元には毎日のように手紙が届く。 「あら」  その中のひとつに、同じ婚約者候補の名前を見つけて手を止めた。 「モーリーン様からだわ。どうしたのかしら」  婚約者候補は婚約者決定前に支持者をはっきりとさせるための大事なパーティーを催すことになっている。アンジェリカは6日後に控えており、モーリーンも近日中に行うはずだ。  その忙しい時期にライバルに手紙を寄越すとは、なにかがあったに違いない。  ペーパーナイフで丁寧に封を切り、手紙をとりだす。 “大事な時期に気を乱すような手紙を送ることをお詫び申し上げます。ですが、どうしても見過ごすことができませんでした。    先日、貴女を支持しているという令嬢から相談がありました。名前は伏せますが、内容は、貴女に脅されているというものでした。  上手く相手の懐に潜り込んで秘密を握り、それを脅しの材料として自分を支持することと、母親の服飾店でドレスの購入をすることを強要しているそうですね。  それも1人ではなく、何人もの令嬢に。  まさかそんなはずはないと、話をしてくれた令嬢の他にも話を聞きました。ですが結果は残念なものでした。  どうしてそんなことをするのでしょう?  相談をしてくれた令嬢は、悲しみと恐ろしさで震えて涙を流していました。  それに加えて、他の婚約者候補の令嬢方に嫌がらせをしていたようですね。相談を聞いているうちに耳にしました。  同じ婚約者候補として信じ難いことです。  ですが、どうしても貴女がそのように非道な人間とは思えません。貴女は社交界の花であり、令嬢の憧れでしたから。  是非貴女の口から話を聞かせてくれませんか?”  寝耳に水の話に、アンジェリカはしばらく手紙を持ったまま固まった。 「これは、わたくしの話なの……?」  相手を間違えているのではないだろうか。  宛先を確認するが、そこにははっきりとアンジェリカ・デイヴィスと書かれている。間違いではない。  わたくしが、脅し? 嫌がらせ?  驚きのあまり頭が真っ白になる。何度も読み返すが、まるで心当たりがない。  わたくしを蹴落とそうとする誰かの思惑? 決定まで1ヶ月を切ったこのタイミングで?    自分が婚約者候補から外れれば、残っているモーリーンが選ばれるだろう。  普通に考えればモーリーンが怪しいのだが、モーリーンが婚約者に選ばれることで利益を得る者の仕業ということも有り得る。 「……直接会って確認するしかないわね」  婚約者決定の日まで日数は少ない。  犯人探しをしている暇はないのだが、やらないわけにはいかない事態だ。  すべては自分の夢のために。  アンジェリカは眉を寄せ厳しい表情で手紙を文机の中にしまい、返信用の紙とペンを手に取った。
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