ワイバーン

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ワイバーン

 荷台を蹴るように飛び立ったオニキスの背にしっかりとしがみつき、アンジェリカは全員に速度上昇の魔法をかけた。   「アンジェリカ! 気をつけろよ!」  ウォルターの大きな声を背で聞きながら意識をワイバーンへと向ける。  素早さはオニキスよりもワイバーンのほうが勝るため、攻撃力の高い大技は当てづらい。  ワイバーンの群れが橋を渡るウォルター達に突撃をしないように誘導できればいいのだが。  そう思いながら自分に補助魔法をかけて距離を詰めていくと、ワイバーンの背に何者かが乗っているのが見えた。  人がワイバーンに乗ってる! 格好からしてサンプトゥンの騎士!  脳裏にモーリーンの顔が浮かぶ。  アンジェリカを王城から出したのは、サンプトゥン国の領土の外で仕留めるためか。  それなら狙いはわたしのはず。このまま橋から離れて距離をとれば……!  オニキスを操りさらに上空へと急上昇する。交戦しても周囲に被害が及ばない辺りを目指して飛ぶが、ワイバーンの群れは進路を変えない。  なんで?! ……まさか、この期に乗じて次期国王となるクリス殿下を殺すつもり!?  迷っている暇はない。橋という逃げ場のない場所にワイバーン乗ったサンプトゥンの騎士が来ている時点で相手側に殺意があることは明確だ。 「急いで戻って!」  アンジェリカの指示にオニキスが猛スピードで引き返す。 「ホーリーアロー!」  真上から攻撃魔法を浴びせるが、それは魔法障壁によって弾かれた。  魔道士もいる! やばい、みんなが狙い撃ちされる!  ワイバーンの群れの中でチカリと光が瞬き、アンジェリカ達のほうに向かって火の玉が飛んでくる。  それをくるりと回避しながらさらに飛行の邪魔をしようと呪文を唱えようとして、一瞬だけ橋の方へと視線を向けたアンジェリカは思わず2度見した。  ウォルター達が向かう先の対岸に数十人の騎士が身を隠しているのが見えたのだ。しかもその手に握られているのは弓。 「ホーリーアロー!!」  考えるよりも先に呪文を唱えていた。  距離があるため攻撃に気がついた騎士たちは素早く回避をする。  今のアンジェリカの攻撃で進路の先に敵がいることがウォルター達に伝わったはずだ。クリスが連れてきている騎士の中には魔道士もいる。交戦は回避できないだろうが橋を渡りきるまでの対策はとれるだろう。  安心したのも束の間、急にオニキスがぐるんと回避行動をとった。ワイバーンに乗る魔道士がアンジェリカに攻撃を仕掛けてきている。一瞬でも気が抜けない。  対人戦はモンスターとの戦いとは違い非常に頭を使う。さらに人との実践経験がないアンジェリカは、人殺しの烙印を背負う覚悟ができていない。  そんなことを言っている場合じゃないのはわかってる。でも……!  ワイバーンからウォルター達を守るために橋へと近づくと魔法攻撃で接近の邪魔をされこちらも負けじと攻撃魔法を放つが、ワイバーンに乗る人間を殺めてしまわないかハラハラとしてしまう。  その甘さが隙を作る。  魔道士の攻撃魔法が橋に直撃した。  馬から降りて待ち構えていた敵兵と交戦していたウォルター達がその揺れで動きが止まる。 「っ!」  そちらに気を取られた瞬間、アンジェリカを目掛けて魔法攻撃が放たれた。  魔法防御力上昇の支援魔法のおかげでダメージは少ないが、その勢いでオニキスの背から吹き飛んだ。    
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