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見覚えのある横顔
「部隊長、この件に関しては私に任せてくれないだろうか」
「はい、隊員には伏せておきましょう。どうか、よろしくお願い致します」
クリスに深々と頭を下げたハロルドの目は険しい。万が一これが誰かの思惑であったならば、散っていった仲間のためにも己の手で鉄槌を下したい。
その怒りの炎を鎮めるようにハロルドは深く息を吐き、「それはそうと」と話を切り替えた。
「あの白ローブの白魔道士は何者なのでしょう? 単独で冒険をする白魔道士も珍しいですが、あの立ち回り方といい魔法の練度といい、只者ではなさそうでしたが」
白魔道士は集中力が試されるため、移動しながらの詠唱はよっぽど経験を詰まなければなし得ない芸当だ。
ファイヤーブラックドラゴンに乗ることで自らが動くことをカバーしていたとはいえ、ただ立っているだけの状態よりはかなり集中が乱されるはず。
それに、移動を任せるだけの信頼関係をファイヤーブラックドラゴンと築いていることにも驚きだ。火を噴くドラゴンは種族に関係なく気性が荒くて気難しいと言われている。
そのファイヤーブラックドラゴンを乗りこなして囮となりながらも完璧な回復支援魔法を成し遂げたのだ。どれだけの経験を積んたできたのか計り知れない。
「私も、あんなふうに戦う白魔道士は初めてみた」
白魔道士が単独で冒険するなら、ターゲットとするのはアンデッド系のモンスターだろう。白魔道士になるものは、正義感が強く献身的な者が多い。使う魔法も浄化によるものを好む傾向にある。
あの白魔道士はそういう一般的な白魔道士とは違うようにみえた。《キングマウンテンクラブ》の懐に飛び込み強烈な一撃を放った姿は、戦いを好む恐れ知らずの戦士のようだった。
そもそもあんな攻撃魔法は見たことがない。固有スキルなのだろうが、固有スキルは神に選ばれた者にしか与えられないと聞く。
所謂、剣聖と呼ばれるような偉人であったり、神殿に仕える最高司祭などが固有スキル持ちであることが多い。
回復支援魔法でも最高難度と言われている範囲回復と複数同時支援を使っていた。それらは大幅に魔力を消耗する。
魔力回復ポーションを使用していたようだが、そもそも潜在的に膨大な魔力量を有し、エリアボスのような化け物並みの魔力回復速度がなければポーションだけでは補えないはずだ。
「あれは、人でしょうか」
畏れを含め、ハロルドが呟く。
神の御業、とまでは言わないが、それだけの力を持った者の支援があったからこそ、多くの犠牲を出しながらも《キングマウンテンクラブ》を倒してこうして生き残ることができた。
「まさに、脅威……だな」
あれが敵国にいたらと思うとゾッとする。
「ぜひともうちに欲しいものですな」
「ああ」
頷き合う2人の目は、同じことを考えている目だった。
他国が目をつける前に、自国に引き入れなければ。
――でもあの声、聞き覚えがあるような……。
でもあんな白魔道士がいればとっくに国が動いているはず。声からして女と思われるが、そんな凄腕の女白魔道士の話は聞いたことがない。――それに。
一瞬だけ見えたあの横顔……。いや、まさかそんなことは……。
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