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再会
迷いつつ倒したばかりのトカゲのようなモンスターから素材を剥ぎ取っていると、僅かに地面の振動を感じた。近づいてくるピリピリとしたモンスターの気配に傍らに置いていたメイスを手に取る。
大きななにかがこちらに駆けてくるような振動を足の裏で感じて戦闘態勢にはいった。
来る!
ザン! と茂みをかき分けて飛びだしてきたのは大型の猪のようなモンスターのブラックボアだ。胴体に見あわぬ俊敏な動きと大木も吹き飛ばすほどの強烈な突進が特徴だ。
さっそく突進で攻めてきたかと思ったが、どうやら動きがおかしい。頭を振り回してなにかを振り払うような動きに違和感を抱きつつサッと躱す。と、躱しざまにブラックボアの体に張りついていた人物と目が合った。
「っ、ウォルターさん?!」
「アンジェリカ?!」
一瞬だったがお互いぎょっとしあう。
「ああああ! ちょっと手伝ってくれー!」
「ま、待ってウォルターさん! 速すぎて追いつけない……!」
アンジェリカとウォルターは慌ただしい再会を果たした。
協力してブラックボアを倒した2人は、その肉を解体して一緒に焚き火を囲んだ。ブラックボアは体が大きいため解体に時間がかかり、用意ができた頃には日が暮れ始めていた。
とっくに暗くなった空の下、香辛料をまぶして串に刺した肉を焦げないように回しながら炙り、あつあつのうちにかぶりつく。貴族令嬢では考えられない食べ方だ。
美味しそうに目を細めるアンジェリカにウォルターは表情を和らげる。
「まさかこんなすぐにまた会えるとはな」
「そうですね、びっくりしましたが嬉しいです」
にこりと笑ったアンジェリカはフードを下ろしている。
そうか、嬉しいのか。
喜んでいるアンジェリカにウォルターはにやけそうになる顔を必死に取り繕う。気を紛らわせるためにその横で美味しそうにブラックボアの肉に齧り付いているオニキスの頭をガシガシと撫でた。
俺も嬉しい。
そう言いたいのだが、アンジェリカに警戒されては堪らない。
出来る限り自然体を装い、再会したときからずっと思っていたことをあたかも今思いついたかのように「そうだ」と切り出した。
「どうせだし、またちょっと付き合ってくれよ。お前がいると効率がいいし、なにより心強い」
自分の実力を評価されている言葉にアンジェリカは顔を綻ばせた。
「そう言っていただけると嬉しいです。わたしもやっぱり1人では厳しいなと思っていたところだったので、信用できる人が組んでくださるのはありがたいです」
屈託のない笑みに、ウォルターは死んでも変なことはしないと心の中で誓った。
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