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サンプトゥン国の兵士、再び
「そうか……良かったな、冒険者になれて」
「はいっ」
幸せそうにはにかむアンジェリカに、ウォルターは眩しげに目を細めた。
冒険者になる前のことも聞きたかったが、語らないということは踏み込むべきことではないということだ。
もちろんウォルターにも話せないことはある。眼帯に覆われた右目のこととか。
もしかしたらまた来るかもしれないと思い、この森の浅い付近を狩場として活動すること数日で見事に再会できたものの、嫌われるのが怖くて隠し事をしたままだとはなんと女々しいことか。
ため息を隠すようにカップに口をつけた。
「ウォルターさんはどうして冒険者になったんですか?」
アンジェリカに聞かれ、ウォルターは不自然にならないようににかりと口角を上げる。
「おまえと似たような理由だよ。憧れてたんだ、冒険者に」
「そうなんですね」
あれ、なんだか悲しそう……?
そう言ったウォルターの笑顔に陰りがある気がして、アンジェリカはそれ以上深く聞くことをやめた。
前回オフゥワ大森林を訪れたときにも思ったが、どうやらウォルターにも話せない過去があるようだ。
似た者同士。お互い抱えている事情があるので無理な距離の詰めかたはしないが、表面だけの付き合いのように感じてしまって少しだけ寂しい。
……近づきたい。
すぐ目の前にいるのに、ウォルターがひどく遠くに感じた。
2日ほど狩りをして、納得のいく成果をだせた2人ははリュックいっぱいに戦利品を詰め込んで近くの街へ訪れた。
今回は《イビルエグゼキュタ》のような手強い相手との戦いはなく珍しいアイテムはないが、量が多いのでそこそこ財布は潤うはずだ。
使ったポーション代以上は稼げただろう。アンジェリカは満足気にほくほくとした笑みを浮かべる。
フードを被り隣を歩くアンジェリカをちらりと見て、ウォルターは切り出すタイミングを伺いそわそわしていた。
「なあ、アンジェリカ」
思いきって口を開く。
「はい」
こちらを見あげるアンジェリカ。フードで顔の半分しか見えないのにキュンとしてしまう意味がわかるくらいには自分の好意を自覚している。
今言わなければ、次いつ会えるかわからない。
「あのさ、俺――」
ウォルターの緊張した面持ちにアンジェリカが足を止めたとき、その背後に何者かが立った。
「アンジェリカ・デイヴィスだな」
失った家名を呼ばれ、ぞくりと悪寒が走る。
さっと振り向くと、見覚えのある顔の男達が立っていた。サンプトゥン国の兵士だ。
「我々と一緒に来てもらう。おとなしく着いて来い」
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