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投獄
「モーリーンお嬢様!」
シュレイバー家の侍女の悲鳴で我に返るも、目の前で起こった光景にアンジェリカは足がすくみ動けなかった。
「誰か! はやく来て!」
金切り声のような声で助けを呼ぶ侍女が階段の上に立つアンジェリカに気がつく。
はっとしたようなその目に、アンジェリカはようやく事態に気がつく。
わたくしがやったと思われる。
ざわりと背中が泡立つ。
この場で慌てて否定をすれば逆に怪しまれる。とにかくモーリーンの安否を確認しなくては。
アンジェリカが1歩降りると、侍女は警戒するようにモーリーンに体を寄せた。
既に疑われていることがわかり冷や汗が伝った。
そうこうしているうちに人が集まってくる。
「モーリーンお嬢様?!」
「一体なにがあったんだ!」
「白魔道士と医者を呼べ! もたもたするな!」
慌ただしく動く事態に飲み込まれないよう、アンジェリカは震える手をぎゅっと握り締めて急いで階段を降りた。
「……で……」
モーリーンがなにかを言いながら目を開いた。
「お嬢様! 動いてはいけません!」
それに気づいた侍女が起き上がろうとするモーリーンを制するが、モーリーンはその手を押しのけて階段の上にいるアンジェリカを見上げた。
意識があることにホッとしたアンジェリカはモーリーンに駆け寄ろうとしたが、その目を見て思わず息を飲んで足を止めた。
目に爛々と灯る感情は怨嗟。温度を無くしたかのようなモーリーンの表情にアンジェリカは怯んだ。
「その人をわたくしに近寄らせないで」
震えながらもはっきりとした声に、その場の視線が全てアンジェリカに向けられた。
「その人に落とされたの。殺されかけたわ」
シュレイバー家の使用人に取り押さえられ、アンジェリカはあっという間に投獄された。
薄暗く清潔感の欠片もない牢屋の中で、今にも壊れそうな木のベッドの上で膝を抱える。
わたくしの幸せが人々の幸せに繋がると思っていた。けれども違った。
あのときのモーリーン公爵令嬢様の目は、わたくしを恨んでいる目だった。
知らぬ間にわたくしは彼女を酷く怒らせてしまっていたのね。
誤って落ちてしまったと言われるとばかり想っていたあのとき、まさか犯人に仕立てあげられるとは。
きっと、最初からそのつもりだったのだ。
モーリーンは移動のとき、そばに人を付けていなかった。落ちる瞬間を見られないようにするためだろう。
でも、どうして?
一体アンジェリカのなにが気に食わなかったというのか。
エリックの婚約者になりたいかと問われたが、それが関係しているのだろうか。
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