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もう一度会いたい
その頃、ウォルターはアンジェリカと別れた街に留まり広場のベンチでぼんやりとしていた。
アンジェリカは罪人だった。
どこか憂いのある目をしているとは思っていたが、まさか、そういうことだったとは。
国外追放になるほどの罪とは、一体アンジェリカはなにをしたのか。
今までみてきた彼女にはまだ自分の知らな一面があるということなのか。それとも、騙されていたのか。
――だとしたら、最後に見せた悲しげな顔は一体……。
いくら考えてもわかるはずもなく、ウォルターは苛立たしげに頭を両手で掻きむしると勢いよく立ち上がった。
……もう、会えねぇのかな。
立ち上がったものの、目に浮かぶのはアンジェリカの顔で。
うだうだしていないで、さっさと行動に移しておけばよかったと後悔する。
「……くそっ」
憤ったところでどうにもならない。
こういうときは冷静になるまでおとなしくしておくべきだが、もう何日もこうしている。無理にでも狩りに出て体を動かさないとどうにかなってしまいそうだ。
簡単なクエストでも受けようかと歩きだしてすぐ、通行人と、ドン、と肩がぶつかった。
「すまない、ちゃんと見てなかった」
「気をつけろよ、冒険者」
慌ててそちらを見ると、相手は兵士だった。兵士はむっとしつつも、低姿勢なウォルターの様子にそれ以上は言わずそのまま通り過ぎようとしたが、ふとなにかを思いついたように振り返った。
「ああ、お前。白いローブを着た若い女の冒険者を知らないか? ブラックドラゴンを連れている白魔導士なんだが」
「女の白魔道士……」
白いローブを着てブラックドラゴンを連れている女の子白魔道士など、アンジェリカ以外いないだろう。
この兵士はどこからどうみてもトライヴス国の兵士だ。なぜアンジェリカを探しているのか。
「なんか知ってるか?」
ウォルターの顔色がさっと変わったのをみて兵士の男の顔に真剣味が増す。
ウォルターは見極めるようにじっと兵士の顔を見つめた。
「その白魔導士がどうかしたのか」
「俺はこう見えても騎士なんだが、国王の命を受けてその白魔道士を探しているんだ。もし知っているなら居場所を教えてほしい」
「……そいつなら、2日前にサンプトゥンの連中が連れて行ったぞ」
ウォルターの言葉に騎士の表情が険しくなる。
「サンプトゥン? それは本当か?」
「ああ」
「やられた……! サンプトゥンめ、いつの間に潜んでやがった! まったく小賢しい……。なあお前、詳しく聞きたいからちょっとついてこい。我が国にとって重要なことなんだ」
語調を荒くした騎士がウォルターに詰め寄る。
サンプトゥンだけではなく、トライヴスもアンジェリカを求めている。
これは、アンジェリカのことを知るチャンスなのではないか。
それに、上手くいけばまた会えるかもしれない。
「わかった、ついて行くよ」
罪人だからといって一方的に去って行くなんて許さない。もう一度会って、しっかりと目を見て話し合いたい。
アンジェリカ、俺はおまえのことを諦めたくない。
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