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2年ぶりの自国
アンジェリカが馬車に揺られサンプトゥンの国に入り数日が経った。
上等な生地で作られた神官服風のドレスを着たアンジェリカは騎士に護衛されながら王城の長い廊下を歩いていた。
記憶との違いがないかと歩きながら確認したが、相違はないようで安心する。
外から吹き込む穏やかな風がヒラヒラとドレスの裾を揺らす。まもなく夏を迎えようとしているからなのか、動いていると肌が少し汗ばむ。
アンジェリカは城内にある客室の一室を与えられ、不自由のない暮らしをしている。行動を監視されているという点では不自由であるといえるのだが、3食付きで監視役の騎士と一緒であれば城外以外は自由に出歩けるのでそれほど窮屈さは感じない。
けれども、どこへ行っても耳障りな言葉が付き纏う。
「罪人が堂々と・・・」
「一体どういう神経をしているんだか」
すれ違う貴族たちの視線は厳しく、心無い言葉が囁かれる。
文句はアンジェリカを連れてきた頭のおかしい連中に言ってほしい。そちらには目もくれず、心の中でだけ悪態をつく。
向かったのは庭園を見渡せるテラスだ。
「アンジェリカ。こちらへどうぞ」
庭園を眺めていたエリックがにこやかに振り向いてテーブルへと促す。
オニキスのことがなければ思いきり睨みつけて舌打ちでもしてやりたいところだ。
オニキスとはサンプトゥン国に着いてからも会っていない。
ちゃんと食事は与えられているだろうか。十分に遊ばせて貰えているだろうか。オニキスのことだけが気がかりだ。
「どうだい、久しぶりの王城は。ゆっくり過ごせているかい?」
「おかげさまで」
服にはじまり、生活に必要なものは何もかも揃えられている。けれども素直に礼を言う気にはなれない。
視線をあわせようとしないアンジェリカにエリックは苦笑を浮かべた。
「それは良かった。けれども、少しやつれたかな。あまり顔色も良くないよ」
「いつになったらわたしのブラックドラゴンに会えるのですか」
心配をしているように眉を下げるエリックを無視して、アンジェリカは語調を強める。
エリックは諦めるように溜息をつき、アンジェリカの向かいに腰をおろした。
「ちゃんと生きているし、元気だよ。きみがもう少し態度をやわらげてくれるなら、近々会う機会を設けてもいい」
そう言ったエリックをじろりと睨めつける。その視線を受け止め、エリックは嬉しそうに頬を緩めた。
「アンジェリカ……そんな目で見つめないでくれないか」
ほうっと熱い吐息を吐くエリックの気持ち悪さにゾッとして眉をひそめる。
「ああ、惜しいな。きみの肌を飾る焼印を消してしまうのは」
両腕でテーブルに頬杖をつき、悩ましげにエリックはため息をついた。
罪人の証である焼印には魔力が込められており、それが魔力放出の妨げになっているというのだが、そのような違和感は今まで感じたことはない。
サンプトゥン国の魔道士となるなら万全の状態にしたいというのがこの国の上層部がだした答えなのだとエリックから聞いたが、別の思惑があるような気がしてならなかった。なぜだか嫌な予感がしている。
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