腕の見せどころ

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腕の見せどころ

 《キングマウンテンクラブ》の移動によって土煙が上がってはっきりとは見えないが、隊員は散り散りになっているし、どう見ても陣形が崩れているようにしか見えない。 「……ちょっと様子を見に行こう」  胸のざわつきを覚えたアンジェリカは岩肌を滑るようにして駆け降りた。が、すぐに足場になりそうな岩の上で立ち止まった。 「嘘でしょ、こんなに大きいの……?!」  《キングマウンテンクラブ》の異常なほどの大きさに驚く。  10階建てのマンションに相当するほどの巨体がまさに圧巻で、アンジェリカはしばし言葉を失くした。  はっと我に返り戦況に注目すると、やはり統率は乱れ敗戦の一途を辿っているように見えた。  素人目でもわかる。圧倒的に人数不足だ。どうしてこんなに少ないんだろう。  少数精鋭ということなのだろうか? だとしても大型モンスターを相手の討伐は時間を要するもの。討伐する人間の体力を回復しながらの戦いになるので、回復の合間に交代する人員が必ず必要になる。  この《キングマウンテンクラブ》に対してのこの人数では、交代する人員が明らかに足りていない。短期勝負を狙うにしてもあまりにも無謀だ。  自分が戦ったところで太刀打ちできるような相手ではないが、少ないにしろ人数はいる。陽動を手伝えば勝機を見出すことができるかもしれない。 「オニキス! こいつの注意を引きつけて!」  アンジェリカの声に反応して上空を旋回していたオニキスが《キングマウンテンクラブ》に接近する。その間に魔道具である拡声器をリュックから取り出し、丸いトランシーバーのようなそれを口の前にかざす。 「気を引きますので前線にいる皆さんは速やかに離れて隊列を整えてください!」  声はちゃんと届いただろうか。《キングマウンテンクラブ》の目の前を飛び回り上手く注意を逸らしているオニキスにも気がついたからなのか、隊員たちが素早い動きで下がっていく。それを見てアンジェリカは集中を始めた。 「範囲回復魔法……“セラフィックサークル(神々しき円陣)”!」  集まった隊員たちの足元に現れた魔法陣が白く輝く。数百人の隊員、全員に回復が行き渡ったのを見て、アンジェリカはまた拡声器を口に当てた。 「2分ほど支援魔法を代わります! 魔導士のみなさんはその隙に魔力回復を!」  そう言いつつアンジェリカは魔力回復薬が入った小瓶を一息に飲み干した。魔力は体力と同じで基本的には自然回復するのだが、使用量が多ければ自然回復では回復が追いつかなくなる。魔力回復薬はそれをカバーするためのものだ。 「オニキス!」  上手く攻撃をかわしつつ《キングマウンテンクラブ》の注意を引いていたオニキスがヒラリと向きを変える。持てるだけの回復薬を抱えてアンジェリカは岩から飛び降りた。それをオニキスが空中で背中で受け止める。  オニキスは全長4メートルとはいえ、まだ子どもで体躯は細身だが、アンジェリカ1人くらいならば余裕で運ぶことができる。 「あそこにいる人たちのところへ!」  オニキスに指示を出して向かったのは部隊の後方いいる回復支援部隊のもとだ。上空から人にぶつからないように間隔をあけて瓶を落としていく。  この瓶の中身は残留ポーションといって、残留ポーションは投げた場所にステータス効果を与える雲を一定期間残留させることのできるポーションの亜種だ。    瓶は割れやすく破片が散らばりにくい特殊な瓶を使う必要があり、扱いの難しいポーションだが、今のように大人数での討伐などでは非常に重宝されるものだ。  1人で旅をするのなら飲むタイプのポーションの方が使い勝手がいいのだが、新しい狩場で必要になるかもしれないと思って大量に持ってきていたのだ。  オニキスの背から回復支援部隊の隊員が回復の雲に入っていく姿をチラリと確認し、アンジェリカは《キングマウンテンクラブ》に顔を向ける。  これほど大きなモンスターを相手に立ち回るのは初めてだ。緊張でドクドクと心臓が高鳴る。  蟹型のモンスターはどれも硬い殻を持つ。わたしの攻撃ではたいしたダメージは与えられない。それなら、囮になりつつ火力となる人たちの支援だ。    怖くないと言えば嘘になるが、アンジェリカの顔はまさしく、冒険者のそれだ。ーー腕が鳴る。 「まずい! 攻撃がくるぞ!」  叫ぶ声が聞こえたが、アンジェリカはオニキスに合図を出して《キングマウンテンクラブ》の前に踊りでる。 「“グングニル(神の槍)”」  目を焼くような白い稲光が槍のように放たれる。《キングマウンテンクラブ》の巨大なハサミによる強烈な左ストレートを、その勢いを受け流すように下から弾いた。渾身の攻撃を弾かれた《キングマウンテンクラブ》が勢いのままたたらを踏むように傾く。 「みなさん、反撃をどうぞ。支援(サポート)します」  アンジェリカの落ち着いた声があたりに響く。        
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