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戦いの被害者
トライヴス国の北側の山間部にはセイクリッドミアと呼ばれる大きな湖がある。
山々に守られるようにして囲まれているその湖には成長を促す力があり、怪我の治癒などで訪れる冒険者もいるが、湖の水が染み込んだ森で過ごすモンスターはその加護により巨大化しやすいため、セイクリッドミアの周辺は危険な場所としても知られている。
そのセイクリッドミアの周辺で1番危険なモンスターが《マウンテンクラブ》だ。他の地域でも見られるモンスターだが、湖周辺に生息するこのモンスターは成長速度が異常にはやい。
打撃がほとんど効かず、戦闘には黒魔道士が必須の《マウンテンクラブ》を恐れてこの地域を大きく迂回する冒険者もいるくらいだ。
冒険者があまり訪れないため、周辺モンスターの退治依頼は絶えず、周辺を見張るための拠点もいくつもある。難易度が高いためクエスト報酬も当然高額になり、そのため中規模から大規模の熟練パーティーがよく訪れるのだが、その中でも《マウンテンクラブ》は敬遠されていた。
だからだろう。数年に一度の頻度で《キングマウンテンクラブ》が発生するのは。
犠牲者を多くだしながらも《キングマウンテンクラブ》を倒したトライヴス国のモンスター討伐部隊は、生き残れた奇跡を噛み締める間もなく死者の埋葬や負傷者の手当てなどに追われていた。
「こんなに被害がでるなんてな……」
「まったくだ。これも上の連中のイカれた采配のせいだ。討伐部隊をなんだと思っていやがるんだか」
「ああ。狂ってるとしか思えない。クリス殿下が合流してくれたのはありがたかったが……。こんなことを言い出したやつも、許可したやつらも全員恨むぜ、オレは」
帰り支度をする隊員の顔には《キングマウンテンクラブ》を倒した喜びはない。
モンスター討伐部隊は確実な任務遂行のために国の中枢を担う大臣や国王が編成を決める。今回部隊を全滅寸前まで追い込んだ責任は大臣や国王にあるだろう。彼らの怒りの矛先が大臣や国王に向くのはもっともなことだ。
その気持ちを汲みながらも隊員の気持ちを落ち着かせる役割も担う部隊長のハロルド・マーティンはある人物のもとへと急いでいた。
「殿下、本当にご無事でなによりでした。申し訳ございません、テントも用意できず、報告書までお任せしてしまって」
激しい戦闘のあと、隊員に指示を出しながらも隊の状況を把握したりと忙しく動き回っていたハロルドは、はっきりとした疲れを顔に滲ませながらも丁寧に腰を折った。
ハロルドの前にいるのは、即席で作った机とテーブルに座るトライヴス国第1王子のクリス・ハーダウェイ・トライヴスだ。
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