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セミ族。
『セミ族』
※虫(セミ)族がでてきます
※ひたすら糖分過多
暑い、暑い夏。
「……ーシ……ツクツクホォ――――――ッシ」
今日もヤツが鳴いている。
「ヨォォーシ……ツクツクホーシツクツクホオォ――――――ッシ」
「もう分かったからぁっ!」
ガバッと振り向けば、後ろからぎゅむっと抱き締められた。ヤツの名はツクシ。黒髪に南の島の海のように美しい青い瞳の珍しいセミ族の美青年だ。いろんな種族が存在する世界。けれど虫系は珍しく、セミ族はさらに珍しい。
頭にはセミ族伝統の麦ワラ帽子。頭部がまん丸と丸いカーブを描く麦ワラ帽子の黒いライン部分にはセミのおめめを象ったキュートなアクセントが付いている。
背中からセミの翅を出す隙間のついたマントを羽織る。
暑そうだが、元々夏にアクティヴ期を迎えるセミ族装束には夏は涼しく、冬は温かい生地を使う。
夏は風通しがよく、強い日差しを遮ることができるものだ。さらにセミ族は腕が2対、脚が1対あった。つまりは多腕である。
そんな2対……合計4本の腕で抱き締められる、俺の腕も総勢4本あった。
ヤツもセミながら、俺もセミだった。
周りにかわいい子はたくさんいるのにこの男、平凡な俺にめちゃくちゃアピールしてくる。
プラチナブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳は珍しいが、それほど美人でもないのに。
めっちゃミーンミーン……ではなくツクツクホーシと鳴いてくる。――――――やつも俺も、ツクツクボーシである。
俺たちの先祖はもっともっと南……ツクシの瞳の色のような海の広がる地にいたそうだ。
そして今ではそんなに気にしてないが、夏は暑く冬はそれなりに寒い四季豊かな都市で暮らしている俺たち。
俺も珍しいセミ族ながら普通に日常生活を送っていたのだが……
最初は俺じゃないだろうと無視してたのに、至近距離から囁くようにツクツク、ツクツク、ツクツクホーシされたらさすがに気付く!そして好き好きハートめっちゃ飛ばしてくる。
めちゃくちゃ……飛ばしてくるうぅぅ――――――っ!アピールすっげぇっ!!さすがはセミっ!鳴きまくる!やっぱり夏はセミの季節ぅっ!!
「好き。愛ちてる。めちゃラブ。けっこんしよ、一生大事にする。ゼン」
「うん、そうか」
愛が、濃いいぃぃっ!!
もうずっとこの調子。でもまぁ、セミらしくもある。メス……俺は受け男子だが、後尾したい相手に対して、情熱を込めて鳴きまくる。
「ヨォォー……ッシツクツクホーシ、ツクツクホーシ、ツクツクツクツクツクツクホーシ、ツクツクホオォーシ」
そうして、ツクシは再び求愛の鳴き声を放ち始めるのだ。
そんなこんなで、暑い夏に結ばれた俺たち。たまに俺よりも……!と言う自信満々なヒロインっぽいかわいい子も来たのだが、ツクシはずっと俺に抱き付きながら後ろでヨォォーシツクツクホオォーシツクツクホオォオォォーシ鳴いてるので、みんな泣いて去っていった。
なんか、ごめんな。
「結婚したいな」
「んもぅ、分かったよ」
セミの猛求愛と溺愛に、折れる俺であった。まぁいいヤツだし、俺には優しいし、オールマイティーだ。
少しは周りにも優しくして欲しいけど。俺溺愛症のツクシには、まだまだ難しいけどな。
――――――――そうして、いつの間にかツクシが所属しているセミ族メンバーが集まるセミバンドのマネージャーも務めていた、俺だった。
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