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「許せ、音無霧夜。―――おぬしの名は柚希と女将に聞いておる。無論、異能者であることも分かっておるが―――さしあたり名で呼ばせて貰うぞ?」
「御随意に…」
「わらわの名は舞雪。もっとも、この里人は、雪御前、とわらわを呼ぶことが多いがの」
謡うように少女、舞雪はそう言った。
―――その名は、ここに来る前に、霧夜も把握していたことであった。
三郷温泉神社。それがここの鎮守であることも分かっている。
「―――三郷温泉神社の鎮守様でございますか」
「左様。この少し行った先の山の手から登ってゆけるでな」
舞雪はそう答えたが、それから霧夜は口を開かなかった。ただ瞳だけが若干険しかった。
舞雪の考えていることが分からなかったからだった。
それを察してか、舞雪は再び困ったような、寂しそうな顔だった。
「霧夜。何を思うて、霧夜がこの温泉宿、それもかのような機で投宿したかは分からぬ。恐らく何かの目的があろうとは思うておるが」
「土地神様ならば、俺の口を割る程度容易いことでしょう」
「そのような悪辣な趣味はしておらぬわ。それとも割られたいのか、おぬしは?」
苦笑。だが舞雪は相変わらずの寂しげな表情であった。
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