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二言三言のやりとりが聞こえてくる。お世辞にも歓迎ムードではない小紫に導かれ、客間に入ってきたのは、セーターの上から白衣を翻した朱鞠内緋那であった。
「やっほー久しぶりゆかりちゃん…って何ココ凄ッ」
正直な感想だった。霧夜が皮肉めいた視線。
「昨日よりかは随分ものが増えたがな」
「…でも、のっぴきならない事情なのは理解したわ…来て良かった…。でも何で霧夜が此処に」
「居ちゃ悪いか」
ふざけたように、やさぐれたようにそう言う霧夜。ゆかりが頬を膨らませる。小紫は笑った。
「音無さんは賓客ですから。いつでも歓迎なのですよ、そうでしょうゆかり?」
「ん。お兄ちゃんはいつでもいい」
「…昨日霧夜が抜け出したのには気づいていたけれど、無理にでもついていくべきだったみたいね」
流石は吸血鬼のようだった。その視線が改めて室内を見渡す。痛んだ壁や畳。その上に何とか据え置かれたテーブルやらソファー。掲げられたランタン、不穏な音を立てる古いストーブ、そしてそれに頼り切りの照明、どこかからの隙間風。
まるで秘密基地じゃない、と緋那は思う反面―――こんな『秘密基地』には住んでいられないことも十分理解している。この寒い冬の中で。
薄々察せられたこととはいえ、相当にゆかりが困窮していることは、これだけでも十分知れたことだった。
緋那は空いているソファーに腰を下ろして、紅の瞳で家主を見つめた。
「往診に来た…なんて言うつもりもないけれど挨拶にね。会うのは二年ちょいぶりか」
「緋那先生まだお勤めだったんだ」
「何残念そうに言うのよまだお勤めよ…」
ガックシとうなだれるような緋那。小紫も霧夜もどこか可笑しそうな視線だった。ゆかりの天然である。
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