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ティープレスの中に湯と茶葉が循環する。そのガラスにランタンの輝きが反射して、冬の秘密基地の中、妖怪変化が集っての、冬のささやかなティータイムであった。
緋那ときたからには丁寧に茶器まで持ち込んで来たらしく、並べられるのもブランドの茶器である。有名どころのものだと霧夜はすぐに分かった。
「朱鞠内は紅茶党か」
「まあね。ちょっとお熱って感じ。料理は出来ないんだけどこれだけはね」
「料理が出来れば白神荘にはご厄介にならない訳だからな」
「うるさいわよ」
珍しい霧夜の茶々。ジロリと睨む緋那だが、緋那もこういうやりとりは嫌いではない。ニヤリと唇を上げて、
「なかなか私も自分の氏素性を明かせない身分よ。こうやって明かしながらお茶が出来るなんて―――それは一つの憧れでもあったの」
「初対面の妖怪にそれをやろうという図太さは認めて差し上げましょう」
「そうじゃなけりゃ、友達なんて出来ない身分だからさ、無理やりにでもね」
小紫にそうやり返すのは、切なさと傲慢さの入り混じった不敵な言葉だった。霧夜は肯定も否定もしない。ただ淹れられていく琥珀色の紅茶の音を聞いていた。
ゆかりもただ黙っていた。やはり何を考えているかは分からないが、別に感銘を受けた風ではなかった。
供されるのは小皿に取り分けられたビスケットやマドレーヌといった茶菓子である。
「簡単だけど、夜中に押しかけたお詫びとして、こんなもんで赦して頂戴」
「随分と安く…」
「…おー…」
しかし目の前のお菓子とお紅茶でのティータイムに、ゆかりのお目目がキラキラであった。ゆかりのその純真な目に、小紫が渋々嫌味を引っ込める。緋那がどこか愉快そうだった。
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