ティーナイト

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ゆかりはやりづらそうにしながらも、ハムスターのようにマドレーヌを頬張っている。ボロボロと零れているのを、隣から器用に小紫がぬぐっているのが、仲の良い姉妹のように見えた。 小紫の視線は優しい。 「ゆかり、もうちょっと落ち着いて食べなさい…。逃げないんだから」 「甘いお菓子久々に食べた…美味しい…」 「…聞き捨てならないわね」 だがそこでそう言ったのは緋那である。霧夜の瞳も同意を示していた。 「今度からは御土産も工夫しましょうか。それが知れただけで良かったわ」 「ゆかりは甘いものが好きなのか」 「…うん…」 霧夜の言葉に素直に首肯するゆかりである。マドレーヌがお気に召したらしい。もしゃもしゃと頬張るその表情は満足そうであった。 「…とりあえず食わせましょうか。この年頃の子に栄養はあって損はないわ…」 「…そういえば、貴女は医者でしたね?」 「そうよ。闇医者でもなくてね」 緋那の言葉。小紫は少し意外そうな顔であった。 「しかし珍しい。この世界の異能者の医者…医術、癒術使いは大抵医師免許などとは無縁のイメージですが」 「超珍しいわよ、表でも医師免許持ってるのはね。無論異能の云々…裏仕様の施術も出来るわ」 朱鞠内緋那の言葉。その通りだと霧夜は思う。だからこそ有名なのだ―――この一族は。 霧夜は紅茶を傾けながら、 「吸血鬼一家、朱鞠内家の長女…。確か一族揃って表でも裏でも医者だからこその有名な訳だからな」 「あとは治療のウデも、戦闘力もね。ウチの両親も、私の双子の妹も、どれもが欠けていることはないわ」 八重歯を見せての緋那の笑い。ゆかりはただ感心した素振りでそれを見つめていたが、どこかテレビドラマを見るかのような瞳であった。
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