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急須を持ってきた柚希が目を丸くする。
「あれ、音無さん、絵を描かれるんですか?」
「多少は」
「わあ!てっきり体育会系の方だと思ってました」
柚希の拍手。態度が図々しいようにも見えるのは何故か。最後の客だからという理由―――そのようにも見えた。思えば確かにそうだ、この音無霧夜にとっては盲点であったが―――向こうからすれば、舞雪にしろ、柚希にせよ、俺は最後の客。最後の客を見送れたら、きっと気持ちが良いというか、―――最後を汚点にしたくはないと思うし、願うだろう。
俺は、多分じゃなくても―――きっと、特別なお客様なのだ。
自分のことばかりで、他人からどう見えるかを、霧夜はここに来てもなお、昨日舞雪に言われるまで、全く自覚していなかったのである。
そしてそれは霧夜の見た目に対してもそうであった。
舞雪はニヤリと笑う。
「まあ霧夜は良く鍛えておるようじゃからの、体育会系に見えるのも無理はないの」
「そうですか?」
「少しくらい自分の見た目を自覚したらどうかの…?」
舞雪の呆れ顔。実際霧夜の浴衣から覗く二の腕は良く鍛えられて引き締まった男のそれである。180cmの長身で、その身体は太い、というのでもないが、その気配も剽悍なそれであって、美大生と名乗ったら、それは意外であろう。
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