ティーナイト

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霧夜は早速に話題を変える。 「朱鞠内はここから転出するのか」 「そうね。あと一か月もないかな。閉院して、一応栄転ってことになってはいるけれど…大学病院に行くことになってるわ」 その言葉に、霧夜は「そうか」と答えたきりだった。緋那は切なそうな笑みである。 「でも居心地良かったから、本当に残念に思ってるわ。山奥だし除雪も億劫だし往診も大変だけど…それでもやりがいはあったし、皆良くしてくれた…貴方達含めてね…」 「…貴方達?」 霧夜の言葉。緋那は苦笑した。 「あのね霧夜も、それにゆかりちゃんも小紫も。私だってさ、無茶言ってるのは分かってるんだよ。こうやって夜中押しかけてさ、いきなりティータイムでさ。…でも私、うん、まあ、嬉しかったのかな。嬉しいんだよね。分かってくれそうな人がいると、押しかけてこうやってやりたくなる。そして、…受け入れてくれるのがさ」 「私は受け入れたと言ったワケじゃないですよ」 「…またマドレーヌ食べたい…」 そこで図々しいゆかりであった。緋那の苦笑があった。霧夜も笑みを浮かべつつ、ゆかりの心の底を見抜いていた。 ―――ゆかりは今、あえて図々しく振舞った。 それは、そうした方が、多分緋那の心の中の罪悪感が軽くなるからだろう。だから道化をしたのだ。―――気遣う義理などないのに、気遣いをしたのだ。 本当に優しい妹分である。 だからこそ。 「ゆかり、無理をするなよ」 そう声をかけて、妹分は一瞬でその意図を理解したらしい。へにゃ、と崩れるような笑いだった。 「大丈夫…お兄ちゃんありがとう…えへへ…」 「…妬けますね…」 「うーん、この懐き具合よ」 最早ジェラシーめいた小紫の視線に、緋那の感嘆であった。
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