みんなの朝

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みんなの朝

酷い夢を見ていた―――そう、起きてから気づいた。 定期的に見る夢だった。 ―――俺の、日常だったのかも知れない、幻が、奪われた夢。 そして人斬りとして生きることとなった、夢。 転がった、一人の女性の、首―――その光を失った目が、虚ろに俺を見つめて。 そして一人の男の哄笑が響く、そんな、血に塗れた夢だった。 「…」 音無霧夜は、青白い朝の部屋の中で、半身を起こした。冷えた部屋なのに、汗まみれの上半身だった。 ―――敵地という緊張のせいか、ここ暫く見ていない夢だったが、久方に見たのは、緊張がほぐれたせいか、それとも別の理由なのか。 ―――この旅館が、あの忌まわしい男の―――故地であるせいなのか。 そんなことを、思った。 いずれにせよ、全身に纏わりついた不快感が、脳内までを重く浸食していた。顔を覆う指の狭間から、時計を見据えれば、いい時間である。 「…」 ただ巨大な嘆息をついた。この夢を見た日は、疲れが取れたなんて感触が一切ない―――ずっしり身体にまとわりつく疲労感が抜けない。だが、ここは敵地で、そして一日が始まる。 霧夜はここ数日の出来事を思い返していた。 この数日の濃密さを考えると、部屋に籠って休養、という訳にはいかないだろう。必ずやどこかで何かが起こっているような有様だ。置いてけぼりになっていてもおかしくない。それに、あの妹分の顔を、どうにも確認しておきたかったし、俺が部屋から出てこないなんてなったら、彼女が「どうしたの」なんて言う、心配そうな顔が見えるようである。それは、どうにも、心が許さなかった。 それは感傷なのだろうか。 罪ではないと思いつつも、霧夜には正解が見いだせない。思えばここに来た理由一つさえも、彼女の 「出来るのかな?」 という言葉一つでぐらついているのである。―――あの悪夢を見て尚、その言葉は背中に貼りついている。 白神柚希を殺す。それはこの悪夢と過去を祓うための儀式の一つ。それに他ならないのだが、だが。分かっているのだ。そんなことをしても、無駄だと。 分かっていてもなお、―――しかしそれでも。
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