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ふと、そんな中、声がする。
垣根の向こう側からであった。
「ゆかりー!!タオル忘れてるわよー!って、さっむ!!」
「…ありがと柚希…」
「あれ、ゆかりさんに加えて柚希さんも朝のお風呂ですか?お珍しい」
「おはよう、珍しいのはそっちもよ真冬。自由に入ってどうぞとは言ったけど、一声かけてくれてもいいのに」
「女将さんにはお声かけしましたよ柚希さん…」
柚希、真冬、ゆかりの三人娘の声である。露天風呂への引き戸が閉まったり開いたりする音。ざぶざぶと入って来る音。珍しく、垣根の向こう側、女風呂に人の気配である。
「…あったかい…」
「やっぱ朝風呂いいわねー、最近惰眠優先だったから入れてなかったけど入れてよかった。ところで真冬も物好きね、こんな朝っぱらから。冷えるでしょうに」
「…」
だがそこで真冬はらしくない沈黙だった。「真冬?」と尋ねる柚希。ゆかりの沈黙までも聞こえてくるようだった。
溜息がした。
「…ごめんなさい、ゆかりさん。ゆかりさんが朝入りに来ると知りまして。もしかしたら、お会いしてお話出来るんじゃないかと」
「なるほど」
「…裸の付き合い…」
柚希の納得に、とぼけたようなゆかりの言葉。ゆかりの言葉はとぼけているようだが真実を衝いていると霧夜は思う。
こういう場では、色々と無防備になる。本音も漏れやすいものである。
「色々、心配なんです。ごめんなさい」
「…ん、お気遣い、痛み入る…」
「何なのよその口調…」
真冬の口調はやや悲痛さを伴ったものだったが、ゆかりはやはりすっとぼけたような口調である。柚希の呆れ声だった。
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