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また沈黙があった。だがそれは意味深な沈黙であったらしい。
「…何なのです?ゆかり?」
「…小紫様は、お兄ちゃんのこと好きなの?」
ざばっと飛沫の音がした。露骨な動揺に霧夜すらもぎょっとしたが辛うじて漣が立つのは抑えていた。女湯から登る湯気すらもゆらゆら踊っているようだった。
「なっ、なななな」
「な…?」
「…ななななな、何でそんなことをッ」
霧夜すらも驚くリアクションだった。柚希と真冬の唖然とした顔が見えるようでもあった。
「小紫様、お兄ちゃんと仲良い…」
「馬鹿はほどほどですゆかり!!私は第一にゆかりの…」
「しっ」
だが案外ゆかりは冷静らしかった。口をうっかり滑らせそうになった小紫を制したのも彼女だった。再びの沈黙。
「…さ、先に出ていますゆかり!!きちんと暖まってくださいね!!!」
「…ん…心配御無用…」
「髪もきちんと乾かすのですよ!!!風邪を引きますからね!!!お嬢さん方お任せしましたよ!!!」
ばたんばたんと扉を閉める音。騒々しかった。唖然とした空気が残っていた。ゆかりの涼しげな顔が見えるようだった。霧夜は岩に背中を預けて黙ったままだったが、気配を殺していつ出ようかと思案もしていた。
女湯の垣根の向こうで、また声がする。
「…しかし、お兄ちゃんと呼ぶくらいだから、ゆかり、もしかしたら霧夜のこと好きなんじゃと思ってたけど、これは…」
「…どうなのかな…」
「…ゆかりもラブなの?」
「…なのやもしれぬ…」
誤魔化すようなふざけたような、いつものすっとぼけた言葉である。ゆかりらしいと言えばゆかりらしい返事だった。
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