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「でも、小紫様、時々、お兄ちゃんのこと、とても羨ましそうに見てる…」
「羨ましそう…?」
真冬の言葉に、ゆかりは返事をすぐにしなかった。霧夜は意外だった。そんな風に見えていたのか―――真意が読めなかった。ゆかりの解釈も不明だったし、小紫の真意も分からなかった。
「小紫様が、でも、羨ましいのは、お兄ちゃんじゃなくて…」
「お兄ちゃんじゃなくて…?」
「…秘密…。でもお兄ちゃんになら分かるはず…。お兄ちゃんのあるモノに嫉妬してる…ね?そうじゃないかな…お兄ちゃん…?」
その言葉は―――明らかに垣根のこちら側に向けられたものだった。最初からお見通しであったらしい。
霧夜は湯から出ながら声を上げた。
「…分かるが分からないと言っておこう」
「霧夜居たんだ…」
「息を殺してたが湯あたりするかと思ったぞ」
柚希の声に霧夜の返事。ゆかりの満足そうな気配が聞こえて来た。霧夜は脱衣所に足を向けた。
浴衣を羽織りながら思う。
―――あるものに嫉妬している。
分かる。
小紫が嫉妬するとしたら、きっとそれは、俺の中に潜むモノだ。
―――妖刀、音無。
舞雪がかつて言ったように、音無は小紫と同じ作者―――つまり舞雪の師、葵の方の作った刀である。意思を持っているが、俺と会話したことすらもなく、明白な意志さえも分からないが―――しかし俺は十全に操り切れていると、舞雪は言う。幼い頃からの俺の相棒であって、腕みたいなものであった。
嫉妬するとしたら、それしかない。
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