慟哭

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慟哭

―――白い夢の中を、ただ眠り続けている。 泥のように眠り続けていた、と音無霧夜が覚ったのは、夜半にうっすら意識が浮上した時で、その時霧夜は意識を手放して再び眠りに落ちた。 眠りに眠って、眠り続けて。 起きた時は早朝だったが、身体全体が鉛のように重かった。携帯電話の時計が―――次回見た時よりも、1日以上過ぎたことを示していた。 ―――思考が全力で稼働を拒否していた。何も考えられなかった。何も考える気すらも起きず、しかし肉体はこれ以上の睡眠を拒否していた。 いつかのように、そしていつものように、青白い朝だった。障子の向こうから、青の光が部屋に漏れだしていた。 音無霧夜は部屋を出た。何でもない浴衣姿で、ただ平坦で黒い眼をしていた。何も思考はしていなかった。 早朝の男風呂には、誰の姿もない。当然である。俺以外男の客は誰も居ない白神荘だった。 ざばりと湯舟の中に身を沈めて、その時はじめて空腹に気がついた。一日中、何も納めていない身体が、エネルギーを要求していた。だがそれを無理やり無視するようにして、霧夜は空を仰いだ。 ちらちらと雪の舞う、白い空だった。 思えば、ここに来てから、雪が降っているのを余り見ていない気がする。良く晴れた日が続いた。昨日―――は眠っていた。一昨日から降り出した気がする。 ぬるめの岩風呂にただ身を浸して、寒空の下、吹き上がるような湯気の中で、無為に天を眺めていた。何かを考えようとして、何も考えられなかった。 ただ、その鉛のように重い身体から、疲れが抽出されて、湯の中に溶けていくようで、霧夜はその仄かな気持ちよさに身を委ねていた。
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