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―――長風呂だったのだろうか。
うつらうつらしていたのだろうか。目が覚めると同時に、眠気が溶けるように、霧が晴れていくように消えていく。体の重さもどことなく取れたようで、霧夜はただ満足したように湯船から身を起こして伸びをした。
疲れていたのだろうと思う。
―――何をどうして疲れたのだろう。
霧夜は朝食会場に足を向ける。いつもの仲居姿の若女将が、闊達な笑顔だった。
「あ、霧夜おはよう!随分とお疲れみたいだったけど、大丈夫なの?」
「…一日寝てたみたいだ」
「大丈夫、具合悪くないの?」
だが笑顔はすぐに心配するようなものに変わった。霧夜は首を振る。大丈夫だと言えば、「ご飯多すぎたら言ってね?」と気遣ってくれる、そのやりとりがありがたかった。
会場に入ってみれば、そこにあったのはここの朝食のメニュー。ご飯に味噌汁、今日はちょっと趣向を変えて甘露煮に、焼き海苔と卵焼き、きんぴらごぼうにグレープフルーツ、食後のヨーグルトで、何の不満もなく霧夜はそれを平らげた。
空腹の身体に栄養が染みわたるようだった。
最後にほうじ茶を流し込み、御馳走様をしてから、霧夜は部屋に戻る。
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