慟哭

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慟哭だった。―――もうあの妹分はいない。あの白い駅から、行ってしまったのだ。俺にあの笑顔だけを残して―――あの女も惚れた、あの笑顔を残して。 叫んだ。その叫びはどこも行けない。―――雪のあばら家に絶叫が木霊して、しかしそれは木霊しただけだった。その叫びは雪に受け止められて消えてしまう。どこにも届かなかった。 霧夜はあばら家を飛び出した。衝動だった。どこにも行けないのに、走り出す―――どこへ行こうというのだろうか。 「…知ってしまったのですね」 温泉街を駆け抜けようとして、そのブーツが動きを止めた。叫ぼうとした口が止まる。滲んだ視界に入るのは、例の参道だった。 そこに、―――彼女が立っていた。 久遠寺永遠子が、立っていた。 「―――永遠子様」 霧夜はそう口に出した。既に霧夜の精神(こころ)は、彼女をそうだと認めている。―――だからこその敬語だった。永遠子はにっこりと微笑んだ。 「知ってしまったのですね」 「…俺が、ゆかりが、死んだことを、」 「違います」 そうではありませんよ、永遠子は微笑んだ。霧夜は茫然として立ち尽くしていた。 永遠子がコートを翻す。霧夜はただそれについていった。月白寺の参道。長くはないそれに、うっすらと雪が積もっている。あの日以来の参道。そこに白い足跡を刻みながら、金色の荘厳に近づいていく。 永遠子は本堂への(きざはし)へ足をかけた。霧夜はついていかなかった。それで良いような気がしたのだった。永遠子もそのようであるらしかった。
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