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葵
舞雪姫は、ただ拝殿に居た。人間の形も、取っていなかった。
ただ、深い悲しみの気配だけが拝殿と本殿に満ちて、それを白妙真冬は感じ取っていた。
「―――雪御前様…」
真冬は神社の娘である。幼い頃からずっと此処にいて育ってきている―――故に薄々気づいている面もあった。
真冬は粉雪の中で、拝殿を掃除しながら思う。
―――ゆかりが行ってしまったのだろうと思う。
真冬には分かっている。あの幻想のような風景。柚希は何の疑問も抱いていないようだったが、その趣味も相まって、あの雰囲気が変なのは分かっていた。
きっと、ゆかりは、行ってしまったのだ。どこか遠くへ。
―――帰ってきたかと思いきや。
ほとんど、何も言わずに、さようなら。
―――みんなで、ここで、挨拶をしたかったのに。先に遠くへ行ってしまった。お別れの微笑みだけを残して。
神様―――雪御前様は無念だと思う。真冬には、薄々分かっているのだ。それを口に出すことは、きっと今なら、許されると思っていた。
昼ではあるが、雪である―――拝殿は薄暗い。その真ん中で、真冬は正座をすると、神鏡と幣束に向かって、声を出した。
「雪御前様―――ゆかりさんは、行ってしまわれたのでしょうか」
「…」
「…それを、悲しまれているのでしょうか」
「…」
「…雪御前様、いや、舞雪様、…教えてください、どうか」
―――返事があった。
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