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泣き濡れた返事だった。
「馬鹿者。…いらぬことに気がつきおって…っ」
姿はなくとも声は響く。真冬は泣きそうな顔だった。
「…雪御前様…」
「真冬。その通りじゃ。ゆかりは行ってしまった…もう二度と逢えぬ遠くへ…」
それだけの言葉。真冬は唇を噛む。あの白神荘の晩―――担ぎ出されていった彼女なのである。
真冬はだから、あのままアレルギーで帰らぬ人となったのだと解釈していた。
「…柚希さんは、知ったら後悔します…」
「告げぬでよい。いつかあの子も分かる」
「…緋那先生は、御存じなのですか」
「知っておる。それと、ゆかりのその後は、そっとしておいてやってくれぬか…あの子が、可哀そうじゃ」
それは半分事実で、半分が誤魔化し。諸々を知らぬ真冬への配慮であった。真冬は俯き、少し考えてから、頷いていた。納得は出来ないけれど―――ここの神様のご指示なら。そう思っていた、真冬だった。
「…雪御前様でも、病気はどうにもならなかったのですね…」
「…神で病が癒せるのなら」
「はい」
「ここの里人は、誰も病にならぬ」
―――神はそう言った。「はい」と真冬は頷いた。その通りであった。
「おぬしの父が雪下ろしの最中に足を折ったように、わらわが目をかけていても、なる時はなる…」
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