ー序Ⅱー

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空疎な空白と古びた空調の音だけが部屋に残った。乾燥した暖気に耐え兼ねて、部屋の窓を少しだけ開けた。 凍てつく外気と部屋の暖気が混ざり合う中で、霧夜はコートから浴衣に着替えつつ、持ってきた大荷物を見つめた。自分でも不思議な気分であった。 何故こんな大荷物を持ってきてしまったのだろう。 ―――本来は必要のない荷物なのに。 何でそんな、俺らしい―――いや、俺らしからぬことを。心の中で、あの少女のあの強気だけれど―――向日葵のような笑顔がリフレインして、霧夜はどこか暗澹たる気分になった。 とりあえず風呂を浴びてさっぱりしようと、それだけを決して、霧夜は浴衣に角帯を巻いた。手ぬぐいを角帯に挟んで、立ちあがって部屋から出た。 赤いくすんだカーペットの床を、衣擦れと共に歩く。冷え冷えとした空気が、袖から腕を舐めていくのを、どこか心地よく感じていた。 霧夜は階段の手前で、立ち止まった。 人の気配―――いや、そうではないものの気配。 音無霧夜は知っている。 これは―――人の気配ではない。となると、それ以外―――人外魔性のものに触れ過ぎた霧夜の直感が、自らに鋭い警告を発していた。 殺気でこそないが―――。
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