ー序Ⅱー

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一階へ続く階段。身体を半分乗り出すようにして下を伺う。 踊り場に少女が一人居た。 視線が交差した。 ―――向こうもこちらを分かっていて、ずっと機を伺っていたのだろうと瞬時に知れた。 霧夜は、口の中でうめき声を漏らした。それが伝わったのか伝わっていないのか、風もないのに踊り場の少女の白い着物の裾が翻って、その清冽な碧の瞳が霧夜を捉えて笑った。 「おや、お客人のようじゃの。―――もうこの宿に、泊まる客などいるとは思えなんだが」 鈴の鳴るような声だった。階段に神気が満ちていた。白皙の肌、白銀の髪、碧の瞳。その神気に着物を翻す少女。どう足掻いても只者ではなかった。 ―――何者か。 誰何する義理はないが、しかし、―――知っておかなければ、ゆくゆくの、俺の『計』に障りが出そうなことも、明白――― だからこその呻きであった。 少女は笑っていた。 音の無い、白い気配が詰め込まれた、沈黙の階段室であった。
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