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浴衣を纏って鍵を袖口に放り込み、廊下を歩いて自らの部屋のドアノブに手をかけようと思ったところで、しかしそこで霧夜は立ち止まった。
―――誰かいると悟ったからだった。
―――柚希か、さもなくば、あの白い少女か。
それは分からなかった。
しかし、誰かいる―――それを霧夜は悟った。
悟った上で、しかし霧夜は、堂々と扉を開けた。
鍵はかかっていた。それを開けて入った。部屋の障子扉を開けた先に、白い少女が正座していた。自分を待っていたのだと知るのに時間を要しなかった。
彼女と向かうように、一つの座布団。
「驚かせてすまなんだの。それに無礼の極みとも承知しておる。しかし、おぬしとはどうしても話しておきたくての」
少女は口を開いた。古風な口調であった。その白い指が座布団を指さした。座れとの指示である。霧夜は何も言わずに従った。
少女は小柄であった。150cmもないだろう。しかしこういう人物は、見かけだけでは測れない―――その髪色や気配からも分かる通りに、およそは見せかけのシロモノである。
霧夜は正座であったが、それを認めてか、白い少女は笑った。
しかし、それは寂しそうなそれであった。
「わらわがどういう者か、大方は分かっているのであろ?」
「…土地神様でしょう」
「左様」
少女は首肯した。冷涼な気配が一段と強くなったように思えた。
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